東京大学物性研究所
The University of Tokyo, The Institute for Solid State Physics
超伝導ギャップ測定へのブレイクスルー:8 eV レーザー
辛研究室ではレーザーの単色性を活かして、従来光源では不可能な高分解能での光電子分光を行ってきた。その一方で、その低励起エネルギー(=7 eV)のためにブリルアンゾーンのコーナー(π,π)付近の測定が不可能であった。
図1のように、励起エネルギーが上がると光電子で測定できる範囲は広がる。
試料表面に平行な波数成分は下式のようになり、光電効果を起こすための仕事関数を5 eV程度とすると、励起エネルギーが8eV程度あれば、7eVで測定できていた波数空間の約1.2倍の領域を測定可能となる。
この程度の励起エネルギーがあれば、図2のように、非従来型の超伝導体の、特に重要なフェルミ面を詳細に観測でき、物性研究におけるブレイクスルーとなりうる。
以上をモチベーションとして、励起エネルギー8 eV以上を有する高分解光源の開発が始まった。
真空紫外領域の光を得るためにレーザーを使用する場合には通常、赤外領域のパルス光を適切な媒質を通すことで高次高調波を発生させる。媒質にはXeやNe等のガスを使用することが多いが、本研究では高分解能を有する光源が必要なため、ガスではなく非線形光学結晶を使用する。
その理由は以下のようになっている。
1パルス当たりの強度を大幅に上げねばならない(図3を参照)。
クーロン反発を起こしてしまう(スペースチャージ効果と呼ばれる)。その結果、分解能が著しく悪化
する。
以上すべてを考慮すると、光電子分光用の高分解能レーザー光源を得るには、1パルス当たりの強度を落とした高繰り返しパルスレーザーを、非線形光学結晶を用いて波長変換する必要がある。