東京大学物性研究所
The University of Tokyo, The Institute for Solid State Physics
エキゾチックな超伝導体とは?なぜ鉄系超伝導体?
超伝導体とは簡単に説明すると、①電気抵抗がゼロで、②マイスナー効果が観測される物質です。①は電流エネルギーが熱となって逃げることを防ぐことができ、②は超伝導磁気浮上という現象を起こし、どちらも性質も応用面から期待が持たれています。
超伝導が発見された後、この現象はBCS理論によって説明されていました。二つの電子が格子を介してクーパーペアを作ることによってより安定な状態になるのが、超伝導状態と理解されます。BCS理論で説明される超伝導では、二つの電子がクーパーペアを作るにあたり、あらゆる方向の運動量を持つそれぞれの電子が、その反対方向の運動量を持つ電子とクーパーペアを作ります。このクーパー対を作る方向に異方性がない超伝導をs波超伝導と言います。
この超伝導が起きる温度(超伝導転移温度、Tc)、室温で超伝導になってくれれば応用もし易いのですが、BCS理論から予想される上限は30~40K(-240~-230℃)でした。これ以上高い温度では超伝導が起きません。しかし、1986年に発見された銅酸化物高温超伝導体では、100Kを超えても超伝導が起きる物質が存在します。これらはd波超伝導体と呼ばれており、電子がクーパーペアを作る方向に異方性が存在する、エキゾチックな超伝導体であることが判明しています。電子がどのような対称性でクーパーペアを作るのか、超伝導の異方性を決定することは、超伝導メカニズムを解明する上で非常に重要な情報となります。光電子分光実験は、これらの超伝導ペアリング対称性を直接決定することが可能な強力な実験手法です。
最近、鉄系超伝導体という新たな高温超伝導体が発見されました。この物質では超伝導に関わる電子が複雑な電子状態を持っており、様々な超伝導対称性が予想されています。この鉄系超伝導体の研究から、どのような構造で、どのような超伝導対称性を持つとより高温の超伝導体が実現するのか解明していくことは非常に重要な研究テーマです。
また、非BCS的な振る舞いをする超伝導体は、極低温と呼ばれる温度領域(絶対零度から数℃程度、~273℃、~数K)に多く存在します。図はそのような超伝導体の物質群の例で、横軸に温度と、それに対応したエネルギースケールを表しています。例を挙げると、空間反転対称性が破れspin-triplet及びspin-singletの混合状態が予想されるLi2Pt3Bや、f電子が伝導電子と混成し超伝導に関与しているとされ、d波対称性が報告されている重い電子系超伝導体CeCoIn5、同じく重い電子系のウラン化合物超伝導体、時間反転対称性が破れたspin-singletが予想されるPrOs4Sb12などがある。このような物質の光電子分光によって超伝導電子状態を直接観測することで、夢の室温超伝導へ向けて新たな知見を得ることができるかもしれません。