東京大学物性研究所
The University of Tokyo, The Institute for Solid State Physics
平衡状態から遠く離れたところで起きる光応答には、光合成、視覚反応、光触媒反応など、魅力的なダイナミクスが多々あります。この中で、超高強度の光パルスを照射することにより誘起される超非平衡状態が注目されています。ここは、山のように励起された電子や格子振動が互いに衝突・連動する超多体問題の舞台です。さらに、系はエネルギーや粒子の散逸を経て、緩和(ないし不可逆的破壊)に至ります。流れを伴う開放系は、我々の想像を遥かに越える様相を呈す場合があります。ビッグバンの後に宇宙が冷めて行く中で、銀河が形成され、生命が誕生し、進化してきた歴史は、超非平衡開放系が無味乾燥な乱雑状態に朽ち果てる以上の面白さをはらむことを如実に表します。
レーザーの発達に伴って、仕事関数より大きな光子エネルギーをもつ、良質のフェムト秒域パルスが得られるようになりました。これにより、ポンプ・プローブ法を用いた光電子分光が可能となり、超非平衡系の電子状態を時々刻々観測できるようになりました。我々は、電子論の観点から超非平衡系の理解を進めています。超非平衡状態を上手く制御できれば、革新的な超高速デバイスの創成につながるかもしれません。
以下のようなテーマに興味を持っています。
超高速光誘起相転移
超短パルスを照射することで、例えば絶縁体を一気に金属化させることができます(e.g. VO2)。光誘起金属相は、ただ熱して到達できる金属相とは様子が異なるようです。新たな超高速スイッチングデバイス機能の観点からも注目されている現象です。
光励起後の電子分布、電子系のエネルギーの流れ
“どの時刻から電子系の温度は定義できるのか?その後どのように電子系のエネルギーは流れていくのか?”という観点から研究を進めています。これは結晶構造、電子構造(層状構造、電荷密度波や超伝導に伴うギャップの有無)、諸物性に依ります。Two-temperature model、Rothwarf-Taylor model、コヒーレント振動モデルなど、非平衡ダイナミクスを理解するためのモデルを検証・精緻化しています。
表面の超非平衡ダイナミクス
吸着反応、触媒反応、電界放出、表面Rashba分裂、トポロジカルエッジ状態など、端だからこそ現れる面白い物性があります。他のポンプ・プローブ法に比して表面近傍の情報を得るのに適している点を活かして、表面の光制御を探索しています。
その他
高温超伝導のARPESからの未解決問題を、TrARPESの観点から見直す / ARPESでは見えない非占有側のバンド分散の直接観測 / 新型光源の開発 / 思いがけない結果の追究
装置
・深紫外レーザー時間分解光電子分光装置 (通称:1号機) (Machine_1st.docx)
・極紫外高次高調波レーザー時間分解光電子分光装置 (通称:4号機) (Machine_4th.docx)