原田 グループ 超高分解能軟X線発光分光
研究メンバー
原田慈久 准教授
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研究概要
本研究グループはSPring-8 BL07LSUにおいて、次世代先端放射光分光の一翼を担う軟X線発光
分光の高度化を図ることを目的として、以下の3つのミッションを遂行します。
①分解能E/ΔE > 20000の超高エネルギー分解能化および高効率化を図るための集光系および
検出器の開発・導入
SPring-8のBL07LSU は25m超の挿入光源により、次世代軟X線放射光光源に最も近い輝度を
持ち、350eVから1keV までの遷移金属L殻で高分解能の軟X線発光分光を行うことが可能で
す。軟X線発光分光は金属、絶縁体、溶液、吸着物質、気体など物質の形態を問わない実験方
法として注目されています。世界中の最先端放射光施設において超高分解能軟X線発光分光装
置の開発競争が激化しており、次世代放射光光源では更に重要な分光実験になると思われます。
諸外国においては高分解能を目指して10mを遙かに越える巨大発光分光器が建設中ですが、本
研究では、SPring-8の高輝度、高安定性を利用した0.1μm極小スポット集光を実現するため
に超平滑ミラーを導入し、さらに米国Advanced Light Sourceの検出器グループが開発中の
軟X線を高位置分解能(~5µm)で受光するCCDカメラの動作試験を共同で行うことによって、
全長3mで諸外国の巨大発光分光器以上の高分解能と高検出効率を両立することを目指してい
ます。
②素励起の運動量分散やミクロ不均一構造を捉えるための角度分解測定モードの導入
光散乱の運動量保存則を用いることにより、軟X線発光分光でマグノンやフォノン、オービトン
などの固体中の素励起のエネルギー分散を観測することができます。
そこで、試料からの軟X線発光の放出角分布を捉えるための分光器回転機構を導入します。分光
器に対するビームの位置(フォーカス距離、ビーム高さ)はµm単位で合わせなければならない
ため、回転に伴う分光器の軸ずれは不可避です。そこで軸ずれをその場で補正する簡便な調整法
を開発し、実用に耐えるシステムを構築します。
③差動排気システムを用いた溶液系、燃料電池などの化学反応のオペランド計測の実現
真に大気圧環境下における物質の様態、特に真空中では安定に存在しない液体や揮発性の高い試
料、ウェットな材料の分析は軟X線発光分光の特長を最大限に活かすことができます。従来大気
圧下測定のためには真空と大気を隔離するためのSiNxなどの薄くて硬い膜がよく用いられてき
ましたが、本開発においては従来の測定に加えて差動排気系を導入することにより超高真空から
大気圧まで連続的に圧力変化させ、窓無しの状態で軟X線発光測定が可能となるシステムを目指
します。この開発により大気圧下に試料を置くだけで軟X線分光測定が可能となります。これは
硬X線領域の結晶構造解析と同じ感覚であり、今後飛躍的に軟X線発光分光のユーザーを拡大す
る引き金となることが期待されます。
①~③の開発内容の概略図を以下に示します。
これらの開発によって、
(1)軟X線発光分光による強相関物質の低エネルギー素励起(フォノン、マグノン、オービトン
など)とその運動量分散の観測、(2)軟X線発光分光による溶液中の界面や分子における電子移
動の観測、(3)動作中デバイスの埋もれた界面の電子状態、(4)各種電池触媒や電極材料
等、水を含むデバイスにおけるその場分析、等が可能になります。
(1)は高温超伝導体の機構解明、(2)は人工光合成や触媒による水の光分解、(3)は磁気メモリ
ーや強相関メモリーの動作過程の分析、(4)は光触媒、燃料電池、リチウムイオン電池材料、タ
ンパク質における酵素反応に直結した研究展開が期待されます。
研究紹介
関係者ページ
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委託・実施機関
(受託者(委託先))
住 所
東京都文京区本郷七丁目3番1号
機関名 国立大学法人東京大学
代表者 辛 埴
E-メールアドレス:
shin@issp.u-tokyo.ac.jp
(再委託先)
住 所
兵庫県佐用郡佐用町光都
一丁目1番1号
機関名
公益財団法人高輝度光科学
研究センター
代表者 木下 豊彦
E-メールアドレス:
toyohiko@spring8.or.jp